平穏な愛の落ち着く場所
夏音さんが売店で買ってきてくれたコーヒーを前に、ゆったり静かな時間が流れている。
さっき彼女の言った言葉は、千紗の心に少なからず衝撃を与えていた。
《どうして加嶋さんじゃダメなの?》
ダメ?
ダメじゃない
ダメなのは私の方、
そう私じゃダメなのよ
だってバツイチで子供がいて……
違う!!!
そうじゃない!
あの時自ら身を引いたのは、ぶつかって砕けることを恐れてもいたし、私なりのプライドでもあった。
愛してると一度も言ってくれない人に
愛してると言うことはできなかった。
自分の全てをぶつけて彼に拒否されてしまうよりも、彼の思い出の中で一番でいたかった
愛のない結婚なんてできないもの
そんな馬鹿な……
たった今気づいた事実に千紗はひどく打ちのめされた。
その愛のない結婚をしたのは私だわ
野口のことばかりを責められない
崇さん以外を愛せないと本当はわかっていながら、野口と結婚してしまった。
例え結果が今と同じでもあの日、
エレベーターなんか待たずに、部屋に戻って飲み込んだ言葉を吐き出せばよかったの?
来てはもらえないとわかっていながら
馬鹿みたいに待っていないで、
愛してる、あなたでなければダメなんだと
彼に伝えに行けばよかったの?
後悔がさざ波となって、千紗の心を揺らし始めた。