平穏な愛の落ち着く場所
『親権……?』
『それは……』
『あの人は本気なの?』
『実はそれが………
元様というよりは大奥様なんです』
『お義母様?』
『大奥様は紗綾様が居なくなられてから
本当にお寂しそうで』
『そう……』
確かにお義母様は紗綾をとても可愛がってくれていた。
それこそ、何でも買い与えて。
そして、私に《次は跡取りをお願いね》と
毎日の様に催促していたのだった。
離婚を切り出した時のあの剣幕を思い出す限り、とても好意的には捉えられない。
『どうして今になって?』
『そうではないのです、
大奥様はそれは、始めは大変お怒りになっ
ておられましたが、千紗様が居なくなられ
た穴を埋めるのに必死になられるうちに
色々気づかれたようです。
大奥様は、若奥様…あなた様にお戻りいた
だきたいのです』
『そんな!!』
野口の義母は根は悪い人ではなかった。
ただお嬢様育ちで周りが何とでもしてくれる環境が当たり前の彼女は、経営はおろか息子の行いにすら他人事のような態度だった。
『だって、野口は再婚するのでしょう?』
『その件については……
実は昨日、結納をする前日でしたが
突然破談になってしまいました』
『えっ?!』
『どこからか、お相手の四方山様に元様の
所業を耳打ちされた方がいたようです』
『そう、でもだからって私と!』
『いえ、大奥様はもっと以前から千紗様と
和解し、戻らせるよう元様に言っておら
れました。元様はそれに反発するように
別のお相手を探しておられましたから』
『南原さん、あなたなら私があそこに戻る
なんてあり得ないのはわかってくださる
でしょう?』
『はい、ですが』
『彼が父親になれない事もわかるわよね?
紗綾にとっても、良くない環境よ。
それなのに彼等の味方についたの?』
南原さんは悪くないとわかっていても、
自然と彼を責める口調になってしまう。
『わたくしもそして病院スタッフもみな、
あなた様にお戻りいただきたいからです』
『そんな!!』
今さらそんな事を言わないで!
『元様は今はまだ相変わらずですが、
大奥様は変わられました。
きっと元様も変わられるはずです』
『無理よ!あの人は絶対に変わらない』
『ですが!これからは私だけでなく千紗様
の味方はたくさんいます。
何かあれば大奥様を含め皆であなたを
お守りしますから!』
『今さら無理よ……』
この人達は守るの意味がわかってない。
野口の悪行は浮気や金遣いが粗いだけじゃないのよ!
私が手を挙げられている事は、冴子や渚にも離婚して再会するまで言えない秘密だった。
崇さんにはすぐに気づかれてしまったけれど
…… ……
『あそこは紗綾様が受け継ぐべき家です』
『そんなの!今さらそんなの狡いわよ!』