平穏な愛の落ち着く場所


『俺が悪かった』


『なんで?!あなたは悪くないわよ!』


いまだかつて、こんな喧嘩腰の彼女を見た
ことはない。

抱きしめて大丈夫だと言ってやりたいのに、
手負いの猪のようにそれを許さない。


『落ち着け』


『落ち着いていたのを煽ったのは誰よ!』


『千紗』


『やめて!そんな風に呼ばないでよ!
 私を聞き分けのない子供みたいに扱う
 のは止めてちょうだい!』


いいだろう

喧嘩して千紗の怒りが収まるのなら
相手になって吐き出させてやろう


『そんなつもりはない』


『はんっ!これは私の問題なんだから
 これ以上口出ししないで!』


『それは出来ないな』


『なんで?!
 そもそもあなたは何なのよ!
 いきなり私の前に現れたと思ったら
 あっという間に紗綾の心を掴んで、
 この間の動物園だって!』


はっ?!

悪いのは俺か!?

話の矛先が違うだろ?


『これだってそう!』


『……これ?』


千紗は何を言い出すつもりだ?


『何で私と食事をするために、わざわざ
 会社から戻ってくるのよ』


『それは……』


……俺に何を言わせたい?


『もうわからないのよ!
 なかった事にできないと言ったのは
 あなたじゃない!』


『は?』


だってそれはおまえが先に……


『私一人が馬鹿みたいに悩んでるわ』


『……何を悩んでる?』



『そうやって馬鹿にしてるのね』


怒りを受け止めてやろう等という余裕は
もはや焦りに変わっている


千紗は何が言いたいんだ!?



『教えてくれ、何を悩んでる?』


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