平穏な愛の落ち着く場所
《勢い》
あとになって思い返して、千紗はこんな事が言えたのは、怒りの感情に任せた勢いでしかないと思った。
でなければ……
《ワン!!》
そう、クインの吠える鳴き声が背中を押したのだ。
『あなたを愛してるの!』
崇は雷に打たれたかのようにハッとして
その場に立ち尽くした。
『おれ、を…あい、してる……』
荒波に揉まれて溺れたかのような、
喘ぐように言葉を発する彼を見て千紗は
絶望した。
『やっぱりね』
気まぐれだったのよ
バツイチ子持ちの女が珍しかっただけ
ううん、そうじゃない
人の心はそう簡単に変わらない
愛してると伝えた所で
この人から愛が返ってくることはないの
だと、改めて実感しただけよ
なんで私は勘違いしてしまったの?
夏音さん、残念だけど思い違いだったわ
千紗は溢れる涙をごしごしと手で拭って、
エプロンを外すと、丸めて鞄に押し込んだ。
『今日で辞めさせて頂きます』