平穏な愛の落ち着く場所
10.
崇は彼女の身体を抱いてベットの上で
そのままごろんと仰向けになり、滑らかな背中を優しく撫でた。
『背中痛いか?』
ベッドルームへ移動するまでに、廊下では
ずいぶん無茶させた気がする
『平気よ、とは言えないかも……』
『すまない』
自分を見上げて弱々しく笑う千紗の額に
口づける。
まだ少し頭の中は混乱していたが
千紗が俺を愛してると言ったのは
はっきりと覚えている。
俺を愛してる
ストンと心にはまった言葉が
じわじわと温かく広がっていき
今まで知らなかった感情が身体をふわふわと
持ち上げていく
『何をにやにや笑ってるの?』
少しびっくりした顔の彼女が伸び上がって
俺の顔を覗き込んできた。
笑ってる?俺が?
言われて納得すると、口の端が更に上がった
そうか、今俺は親友たちのように腑抜けた顔をしているのだろうな
はははっ、そうか!
悪くないな
それどころか最高の気分だ
俺の魂全て千紗のものだ
今ならあいつらの気持ちがわかる
『ねえ?戻らなくてもいいの?』
『戻る?どこへ?』
背中を擦っていた手を下へおろすと
千紗はクスクス笑う。
『ちょっと……ダメっ』
手を止められて、コツンと額が合わさった。
『崇さん』
『ん?』
『あっ…ダメってば……』
背骨を辿るようにつーっと指を上げて、
短い髪を一房持ち上げた。
『なあ、髪また伸ばしてくれ』
『それはいいけれど……お仕事…』
『仕事?なんだそれ?』
とぼけて軽く耳朶を噛むと、昔よく聞いたソプラノの笑い声で千紗は俺を押し退けた。
『シャワー浴びないと』
『いいね』
『もぅ、一緒にじゃないわよ』
笑いながら起き上がろうとする彼女の手をつかんで身体を反転させた。