平穏な愛の落ち着く場所
『ちょっと!あ…んっ……本当に?』
『辛いか?』
『そうじゃなくて……やっ…でも……』
彼の長い指が胸の頂を擦っただけで、千紗は無駄な抵抗を諦めた。
知り尽くされた身体は簡単に火がついてしまう。
『なにか鳴ってない?』
崇は肩を押された手をとって、その手のひらに口づけた。
たぶんその辺に脱ぎ捨てた俺の上着の中の
携帯だろう
『聞こえないな』
するとしばらくして、今度はベッドサイドの電話が鳴り出した。
『電話……』
『無視しろ』
『でも保育園からかも?』
千紗はそうではないとわかっていたけれど
、たぶん彼の会社の人が急用なのだろうから
今度は彼の両手を止めさせた。
『違うと思うが』
渋々身体をよけて仰向けになった崇だが、
電話を取るつもりがないらしい。
千紗は気だるい身体を起こして、仕方なく彼の胸の上を斜めに乗り越えてナイトテーブルの上の子機を取ろうとした。
その体勢に気をよくした崇は、自分の胸に落ちてきた髪を指に絡ませる。
『悪くない眺めだな』
魅惑的なお尻に乗せたもう片方の手は警戒するような眼差しとともにつねられ、崇は笑いながら手を引っ込めた。
『早く出ろよ』
まだ何かイタズラをしそうな彼を睨んで上半身を起こすと、千紗はシーツを手繰り寄せて身体を覆った。
『もしもし……』
私の髪を弄んでいた指にうなじから肩を揉みほぐすようになぞられて、思わず気持ちよさに吐息がこぼれそうになり受話器をぎゅっと握りしめる。
電話の向こうの人物が一瞬絶句したように息を飲んで押し黙った。
『凝ってるな』
崇は笑いを堪えているつもりらしいが、完全に瞳が笑っている。
千紗は《止めて》と声に出さずに言って彼を怖い顔で睨みつけた。
短いため息が電話越しに伝わってきた。
『あっ、もしもし?』
『千紗ちゃん……昼間からセクシーな声で
真面目に仕事してる男をヤバい想像に
走らせないでくれる?』
甘く低音ボイスに囁かれて、見られていたわけではないのに、千紗は真っ赤になった。
『こっ浩輔さんっ!!』
状況が状況でなければ、あなたの声の方が何倍もセクシーですってと言い返したのに。
『お楽しみ中のとこごめんね』
『やっ……そんなっ』
増す増す赤くなる顔を隠すように千紗は
崇の胸に倒れるように突っ伏した。
『マジか?その反応からするとあながち
外れてはいなんだな……ったく……』
受話器の向こうで、不味かったなとか狼に噛みつかれるなとかぶつぶつ言っている。
居たたまれなくなって受話器を崇の耳に押し付けた。