平穏な愛の落ち着く場所
『あの男はおまえとやり直そうと言ってきた
たのか!』
『そうじゃないの……病院も大変なのかも…
再婚話が流れてしまって皆色々不安なんだ と思うのよ』
千紗は慌てて南原から言われた件を話した
『よくもそんな事を!!
おまえとやり直させる為に破談にした
訳じゃない!!』
『なんですって?!』
今度は千紗が驚く番だ。
何故だか…と首を捻っていた南原さんに、
まさかね、と一瞬頭を過ったけれど。
『あっ…いや……四方山物産に話しを
したのは俺じゃないんだ……』
『彼のお相手は四方山物産さんだったのね』
千紗は自分が知っていた事を言うつもりはななかった。
『それは……』
『誰が何を言ったのか教えてくださらなく
て結構よ、だけど野口の事に関わるのは
もう止めて!』
慌ててなだめようとしていた崇の顔が再び怒りに歪んだ。
『なぜおまえはやつを庇う!』
『庇ってなんかないわよ』
『じゃあ何なんだよ!!』
崇の激しい口調と、顔が怒りの余り歪み顎が固く強張っているのを見て、急にパニックのように先日殴られた時の野口がよみがえってきた。
『何って……』
大丈夫、あの時だって私は立ち向えたのよ、
それにこの人は違うわ、と心の中で打ち消しながらも声が萎んでしまう。
『これ以上私の問題にあなたを巻き込みたく
ないだけよ……』
『私の問題だと?!よくもそんな……』
崇は低く唸るように言って千紗を見た瞬間
冷や水を浴びせられた。
『ちくしょう!俺はあの男とは違う』
『えっ?』
慎重な動きで彼女を抱き寄せた。
『おまえの事が心配なんだ、辛い想いはして
欲しくない、もちろんあの娘にも……』
『崇さん……』
インターフォンが鳴り、秘書が迎えにきたと
告げている。
『もう行かないと』
千紗は身体を離して側の椅子にあった上着を
着せて、玄関まで背中を押した。
『まだ話しは終わってないからな』
『ええ』
渋々エレベーターに乗る彼を見送って
玄関の扉を閉めた途端に、膝から崩れ落ちた。
私はおめでたい勘違いをしているわけではなさそうだわ。
あれは愛してるって事よね?
ならば、どうして言葉にしてくれないの?