平穏な愛の落ち着く場所
『この辺りのピュアガーデンというマンショ ンを探しているんだが?』
『うちのは、マンションなんて立派なもん じゃないわよ』
片手を払ってふんっと鼻をならす。
『は?』
『そこに住んでるんだってば』
『助かった』
『何の…ううん、誰にご用かしら?』
向こう三軒両隣じゃないけれど、オーナーのおばちゃんとはいい茶飲み友達な愛ちゃんは住人をほぼ知っていた。
『森澤……くそっ』
言いかけて崇は顔を思いきりしかめた。
あの忌々しい名前を直ぐにでも変えさせる
必要がある!
『野口ち……』
『千紗?!』
『知ってるのか?!』
愛ちゃんの厳しい瞳が、崇をゆっくり頭から足下へと上下する。
『あんた、ろくでなしの元亭主じゃないわよ
ねぇ?』
崇はあんな男に間違えられた事に一瞬怒りを覚えたが、ろくでなしという言葉にニヤリとし、その怒りを飲み込んだ。
ここにも同士がいたようだ。
『違う』
『あら!うそっじゃあ、あんたもしかして
そうよ!間違いない!たかしゃんね!!』
その呼び方をするのは和奏と咲希と最近は
もう一人。
崇は目の前の人物が千紗親子ととても親しい関係だと推測し、意外な顔をした。
こっち関係の友人の話は聞いたことがないな
。
『ああ、そうだ』
さっきまでのよそよそしい態度が一転、
いきなり《ヤダーッ》と奇声を上げて
《ついに会えたわー》って、けばけばしい香水の香りに抱きつかれる。
『おいっ!』
明らかに狼狽えながら、崇は彼…じゃなかった失礼、彼女を引き剥がした。
『へえー、ふうーん、そうー』
彼女はさっきとは別の興味津々な瞳で上から下へと視線を這わせて、にやにや笑いだした
『俺は君を知らない』
何となく居心地が悪くなって咳払いする。
『知ってたら驚きよ』
崇はハッとした。
そう言えばこの間、千紗を説得して保育園の迎えに行った時に、あの娘の口から聞いた気がするぞ!一緒にランチしたり、服を買ってくれる……お隣の…がらがら声の……
『あーちゃん……』
『ヤダーうそーあたしを知ってるの?!』
俺の呟きを聞いて飛び上がった彼女がまた
手を伸ばす前に素早く横に移動した。
『なによー』
『条件反射だ』
口を尖らせる愛ちゃんを上手くなだめて
崇はマンション(しかも千紗の家の扉前!)
まで連れて来てもらう。