平穏な愛の落ち着く場所


一方、崇は白い壁に無造作にたくさん貼られた紗綾の写真のスペースを見つけて、足を止めた。

あの娘は産まれた時から母親にそっくりだ。

写真は透明な袋に入れられて上に小さくシールで○ヵ月や○才と貼られている。
崇は成長を追うように夢中でそれを見ていた

『着替えてきます』

千紗の言葉に振り返って、問いかけるような眼差しを送る。

『それでかまわないが?』

『馬鹿言わないで』

『それより風邪を引く』

小さなダイニングテーブルの上に置かれたドライヤーを手に取ると、千紗を椅子に座らせて、崇は彼女の髪を乾かし始めた。

髪よりも私はこの下にパンティ以外何も着てないのよ!と千紗は言いたかったが、懸命に口を閉じた。

あえてお知らせするようなことじゃない。

『自分で出来るから』

ドライヤーから逃げるように立ち上がって
振り返ると彼の右眉がひょいと上がった。

『昼間はそんなこと言わなかったぞ』

その事を思い出させるように、髪を透く手に首を掴まれて荒々しく唇が重ねられた。

とたんに情熱に火がついた。
千紗は彼にやめてと言うつもりが、両腕を彼の首にまわしていた。
彼が唇を離した時には言われるまでもなく、
昼間の情熱がよみがえっていた。

『思い出したか?ついでに出掛けに俺が
 言ったことも思い出しただろ?』

こんな脳ミソがとろけた状態では、素直にうなずいてしまっても、女なら誰も責められないはずよ。

崇は見るからに自慢気な顔をしている。

千紗の心に再びやるせない気持ちがこみ上げてきた。

『私には時間が必要なの』

『何の時間だ?』

『あなたとの距離を置くためよ』

『ふざけてるのか?俺たちのどこに距離を
 おく必要があるんだ!まさか昼間言った
 事を忘れたとは言わせないぞ!』

『もちろん覚えているわ!』

『それならば何故!!』

『なぜ?何故ですって?!』


千紗はもはや破れかぶれの心境になった。

あなたこそ、私の言った事を忘れてない?

私はあなたを愛してるって言ったんだけど?

私たちはどこへ向かっているの?

あなたは私をどうしたいのよ!


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