平穏な愛の落ち着く場所

崇はようやく千紗が何のことを言っているのか気づいた。

途端に瞳の前の暗い夜が明け
春の日差しのごとく光り輝いて
クリアな世界に投げ出された。

ほんの少し前、
俺はその言葉が存在しない世界にいた

自分にはそんなものが存在しないと思って
いたし、それを自分が口にする日が来るとは
夢にも思わなかった。


『何度も?そうか?』

崇の瞳が優しく輝く。

『ええ』

『俺の記憶が確かならまだ二回だと思うが』

『三回よ!さっき二回言ったもの!』

そんな事でむきになる所が昔と変わらず可愛いくて、自然と甘い笑みがこぼれだす。

『千紗』

名前を呼ぶ声色だけで俺を理解できるのだから、それだけで充分伝わっているはずだと思っていたが……

『ダメよ、ずるいわ
 そんな呼び方してもわからないんだから』


千紗はジリジリと彼から離れた。

わかってる

でもやっぱり言葉にして欲しい

そうでしょう?

千紗は心の中で世界中の女性に同意を求める


『千紗』

彼の低く掠れた声が
私の名前を甘く包み込むように囁いて、
大切な宝物のように腕に抱き寄せられた。


『もう、ずるいっ……』


大きな両手に頬を包まれて顔を上げると
愛しむように額に口づけられて、
仕方なくそれで譲歩しようと瞳を閉じた。

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