平穏な愛の落ち着く場所
『ちょっと静かにして!!』
千紗はヒステリックに叫ぶと、携帯を耳にあてた。電話帳から呼び出した元夫の番号からは、おかけになった番号はーーとお決まりの返事が返ってきて、心臓が喉元まで競り上がってくる。
『どうしよう、どうしよう』
千紗は無意識に短縮ボタンの1を押した。
動揺して当てたままだった耳元の携帯から
崇の声が聞こえてきて我に返った。
『千紗か?どうした?』
彼の声を聞いた途端に千紗の瞳から涙が溢れだした。
『崇さん……』
『泣いてるのか?おいっ!何があった?』
『紗綾がいないの、連れてったの!あの人が
どうして……なんで?どこへ行ったの?
今までこんな事一度もなかったのに……
どうしたらいい?ねえ、どうしよう!』
言葉を吐き出すうちに回らない頭がショートしてパニックを引き起こした。
『落ち着け!』
『いやっ返して!!どこなの?!』
『千紗、落ち着くんだ、大丈夫だから』
崇は低く落ち着いた声で、なだめるように何度も同じ言葉を繰り返した。
その一方で怒りに震える手で、今日中にやるべきだった仕事をメモ紙に殴り書きする。
『深呼吸するんだ』
千紗は言われた通り、一度深く息を吸って吐き出した。
『今どこだ?』
言いながら崇は車のキーを手にしてメモを秘書に渡すと、エレベーターの呼び出しボタンを乱暴に何度も押した。
『保育園』
『すぐに行くからそこを動くな』
『でもっ!』
『いいから、電話を園長先生に変われ!』
千紗が園長先生に携帯を渡すと、
先生はうなずいて何も言わずに受け取った
『加嶋です、説明は後で聞きますから
俺が行くまで彼女をそこに留めて下さい』
『こちらの不手際で……』
『謝罪は後でいい!とにかく今は彼女を
頼みます』
『わかりました』
園長先生は崇の言う通りにし、
千紗を応接室へ連れて行くと、彼女がどこかへ電話している間、隣で手を握っていた。
動揺する二人の担任には、職員室で待機してもらった。