平穏な愛の落ち着く場所


南原は野口元からのメールを見て
ただ事ではないと奔走している最中に
若奥様からの留守電に気がついた。

いい加減、この坊っちゃんは目を覚まさせないと、取り返しのつかない事になる。

もしくは……

野口病院は父親の代から引き継いだ、最も大切な顧客であるからこそ、危ない橋も渡ってきたが、そろそろ進退を考え直す時かも知れない。

自分は、家族の問題に深く関わりすぎた。

いい加減、疲れた。

南原はひとつ大きなため息をついた。

『わか……』

奥さま、と声を掛けようとして南原は扉の前で立ち止まった。

部屋の中で、彼女の肩を抱いたままイライラと電話をする男には見覚えがある。

いや、それよりも。

軽く首を振って、自分がその可能性を考えなかった事に苦笑いした。

彼女だって、前に進む権利がある。

目の前の二人は間違いなく、娘を心底心配する夫婦じゃないか。

いつも気丈だった若奥様が、あの様に弱さをさらけ出して頼りきっているという事は
そういうことなのだろう。

彼女があんな風に泣く姿は一度も見たことがない。どんなに辛くとも、瞳が揺れても
涙がこぼれることはなかったというのに。

こちらの要求が聞き入れられないわけだ。

自分の立場を弁えずに、あれだけ離婚に協力したのは、彼女に幸せになってもらいたいと心から思ったからなのを忘れていたな。

またひとつ面倒な仕事が増えた。

奥さまを説得できるだろうか?

南原は諦めの長いため息を吐き出した。

やはり、野口病院とはこれを最後にしよう。


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