平穏な愛の落ち着く場所
キーっと車が一台、細かい砂利を蹴散らし急ブレーキで止まった。
『止めろ!崇!』
エンジンを切らないまま、運転席から蒼真が飛び出した。
若く体力があり何もかもが退屈だった昔、
勇斗とともに危ない世界に足を突っ込んでいた崇は、攻撃を受けても痛みを流し拳を振り続ける術を得ている。
『止めるんだ!それ以上やったら死ぬ!』
燃えるように血走った崇の目には蒼真すら写らないのか尚も血だらけの拳を振り続けた。
『紗綾はどこだ!言うんだ!』
蒼真が崇を後ろから羽交い締めにして押さえ込む。
『…おし…え…る…もの…か』
途切れ途切れに言って野口は気絶した。
『ニール、そいつをあっちへ連れてけ!』
ニールと青い顔した南原が野口を引きずって崇から遠ざけた。
『離せ!あの娘を探さないと!』
『落ち着けよ!!』
蒼真は羽交い締めにしたまま崇の耳元で、
大声で叫んだ。
我に返った崇はドサッとその場に座り込んだ
『別荘には警察が向かっている。
おまえ達が出た後に、地元の警察に捜索
を頼んだと宇陀川さんから電話がきたから
そろそろ報告が来る頃だと思う』
《ほらな》とタイミグを図ったように蒼真のの携帯が鳴った。
その場の空気がピンと張りつめる。
『宇陀川さん!……はい、そうですか……
ありがとうございます……わかりました』
『無事なのか?』
『ああ、紗綾ちゃんは無事だ。
いま地元の警察署に向かってるそうだ』
蒼真の吐いた安堵のため息に、千紗も止めていた息を吐き出した。
そして重大な事に気づいたかのようにハッとして、崇に駆け寄り蒼真を突き飛ばした。