平穏な愛の落ち着く場所
仕事と住む家を探しながら、
ビジネスホテルに滞在して一週間。
面接担当者の返事はいつも同じ。
大学を出てはいるものの、卒業後、
すぐに結婚してのバツイチの子持ち。
ー野口さん、あなたの様なお嬢様は
うちなんかで働かなくても
よろしいのではないですか?
不動産屋とて、答えは同じ。
ー保証人もいないなんて…あなたの様な
お嬢様はご実家に戻られた方が
いいと思いますよ?
もう駄目なのかと、諦め半分で紗彩を連れて
その日最後の不動産を出た所で
たまたま親友の冴子に会った。
紗彩が冴子に気づかなければ、
今頃、頭を下げて実家に戻り
惨めな結婚生活となんら変わらない
毎日を送っていたに違いない。
大学を出て直ぐに嫁いだ、社会経験のない
シングルマザーの私が、職を見つけて、
なおかつ好条件な保育園を
見つけられたのは、全て冴子のお陰だ。
『なぜもっと早く言ってくれなかったのよ!
バカ千紗!!親友だと思っていたのは
私だけなの?!』
あの時、冴子は本気で私を怒ってくれた。
叩かれた頬の痛みより、親友の涙を見る方が
よっぽど心が痛かった。
そして、本気で心配してくれる人がいる
事に涙し、私は彼女にすべてを打ち明けた。