平穏な愛の落ち着く場所
『救急車を!』
『千紗ちゃん、これ位でこいつは……』
『ダメよ、お願い…こんなのダメっ』
『そんな大袈裟な……え?』
千紗が崇のだらんとした腕を止血するのを見て、蒼真はようやく崇の手を赤くしているのは野口の血だけでないことに気がついた。
『早く!お願いっ!!!』
『僕がかける!』
ニールが慌てて携帯を出した。
『くそっ!どういう事だ!!』
蒼真が悪態をついて、崇のスーツの上着を脱がせると、ワイシャツの手首の辺りがどす黒い赤に染まり血が滴り落ちている。
シャツを捲るときれいな切り口が一本と
よく見たら拳には数本の深い切り傷があった
『野口が石で手首を切ったの!
あの人はどこの血管を切ればいいのか
わかってるから……もうっ止まってよ!』
崇は少し朦朧としながら、泣きじゃくる千紗の頬をもう片方の手で撫でた。
『俺はいいから紗綾の所へ行くんだ』
『でもっ』
『心配するな、大丈夫だから……
それよりも早くあの娘を安心させてやれ』
そう言って、飛びそうになる意識に歯を食いしばった。
『ニール、俺の車で千紗と警察署へ行って
くれ、おまえがいた方がいいだろ?』
『ああ、承知した』
蒼真は脱がした上着から車のキーをニールに投げると、千紗にうなずいて止血を変わった。
遠い所から救急車のサイレンが聞こえてくる
『病院に着いたらすぐに連絡して』
蒼真に念を押して千紗はニールとともに警察署へ向かった。
『そいつの事だが……』
南原の前に伸びている野口を見る。
『もう喋るな!あとは俺に任せろ』
『わりぃな蒼真……』
『千紗ちゃんは行ったから意地張るな』
『くそっ……』
悪態をついて崇は意識を手放した。