平穏な愛の落ち着く場所

5.



消毒液の染み渡った独特な臭い

清潔に磨かれた床から聞こえるサンダルのキュッキュッという足音

この空間へ来ると、懐かしさと不安の入り交じった複雑な気持ちになる。

確かにひどい結婚生活だった。

正確なメスさばきで外科医としては信頼の
あった夫の本当の姿に怯え、
支払日の迫った請求書を見るたびに吐き気と
頭痛に苦しんだ

でも悪いことばかりではなかったわ

そう、もう過去だと

やっと思える日がきた。


『ベイビー大丈夫かい?』

振り返ったその人の薄茶色の髪が蛍光灯の
明かりの下でもキラキラと輝いている。

千紗はゆっくり微笑んだ。
この人はベイビーと呼ぶのが口癖なんだわ。

『はい、色々ありがとうございました』

『まま、はやくいこっ!』

腕の中の紗綾は元気いっぱいだ。


ああ、神様感謝します。

ニールさんと警察署へ行くと、

待っていたのは……


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