平穏な愛の落ち着く場所
『ままーーー』
『紗綾!!』
元気いっぱい駆けてきた紗綾を、ぎゅっと思いきり抱きしめる。
『まま、くるしい』
『ごめんね』
『なかないで、まま。さあやね、おねえさん にいっぱいあそんでもらったよ』
紗綾は無理矢理連れてこられて、怖い思いをしたわけではなさそうだ。
『おねえさん?』
千紗が紗綾を離すと、
目の前に来た22,3位の若くて可愛いらしい女性に、いきなり土下座された。
『申し訳ありません!』
『えっ?!なにっ?止めてください!』
千紗はわけがわからず、取り合えず彼女を立ち上がらせた。
『あの、どういう事でしょうか?』
『それはこちらで説明します』
ニールさんと共に三十代後半のスーツの男性刑事が現れた。
『気が済んだら行きましょう』
続いて、制服の女性警官が土下座した女性を
連れていってしまった。
応接室のような部屋に入ると、ニールさんが
説明を始めた。
『あのサイテー男の悪事にも善があったよ』
さっきの若い女性は、野口の病院の看護士でそして愛人で。
『昼メロもびっくりな関係だね』
けらけらっと笑うニールさん。
彼女は本気で野口を愛していたようだ。
誰にも居場所を告げずに、別荘で紗綾と暮らすように言われて……
なんてこと!!
自分は離れた所で暮らそうなんてよくもあの娘の父親だなんて言えたわね!!
彼女にしてみたら娘を任されて、家を与えられて、それはいずれ妻になれるのだと勘違いする。
まさか、誘拐のような事になっているとは疑いもしなかったそうだ。
『おねえさん、すごくやさしかったよ』
にっと笑う娘の頭をニールさんが優しく撫でた
『わかりました、色々ご迷惑をおかけして
申し訳ありませんでした』
千紗は刑事さんに頭を下げる。
ほんの少しだけあの女性に同情した。
だって、紗綾に良くしてくれた様だし、
言ってみれば彼女だって野口の被害者だ。
『彼女に対して法的な罰を請求するかい?』
ニールさんの優しい声色に、彼も同じ意見だとわかって千紗は安心して首を振った。