平穏な愛の落ち着く場所
『こっちだ』
病室の前で、疲れた顔をした蒼真さんが
手をあげた。
『まだ寝てる、消耗してたし出血も多かった
から、強引に少し薬で眠らせてもらった。
もうすぐ覚めると思うよ』
ここへ来る途中の蒼真さんからの電話で、
腱ギリギリの所まで達していて、
手術で縫うことになったと言われた時には
動かなくなる手を想像して、倒れそうになった
慌てたように蒼真さんが、手術はすでに終わって機能に問題はないと教えてくれたので
安心してここへ来たのだけど。
『わかちゃんのパパもおけがしたの?』
蒼真さんの服についている血を見て
紗綾が泣きそうな顔になった。
『俺は大丈夫だよ』
疲れた顔が優しいお父さんに変わる。
こんな時でもやっぱり蒼真さんの微笑みは
絶大だな、なんて思ってしまう。
『蒼真さん、ありがとうございます』
千紗が頭を下げるのを見て紗綾も真似する。
『いや、俺は何も!頭を上げて!』
『私……何度も助けていただいてばかりで
どうやってお礼をしたらいいのか……』
『そんなの、崇は親友だからっ』
参ったな、って困り顔の蒼真にニールが笑いながら助け舟を出す。
『ベイビー、フェミニストソーマが困ってい
るからその辺にしてあげて』
千紗は涙を堪えて顔をあげた。
『俺はニールと帰るけど、帰りの運転が
厳しそうならあいつの車も持ってくよ?』
『ソーマ、それって一台ならば、僕が運転
するって事?』
『当たり前だろ、行きは俺だったんだ!』
『いいけど、隣で寝たらどこへ連れていくか
わかるよね?僕の気持ちは……』
『え?』
会話を聞いていた千紗が驚くと、更にぎょっとした蒼真が慌てて紗綾の耳を塞いだ。
『おまえっ!』
『ごめんごめん、でもさーわかってよー
ねぇ千紗ちゃん』
『えっと……』
『わかるか!夏音に殺されたいのか?』
『いいね、そんなシュチュエーションも
ちょっと萌える』
『おまえは電車で帰ってこい!!』
『なんだよ~つれないな』
『あの……私、運転は自信ないので……』
千紗は申し訳なさそうに二人の会話に割って入った。
言い訳になるが、出来ないわけじゃない!
ただ、3年以上もペーパードライバーだ。
それがいきなり高速は無理ってものでしょ?
それにたぶん色々知ってる崇さんが
一番反対すると思うし……
『そう!じゃ崇のはニールが乗って帰るよ』
『お疲れなのにすみません』
ちぇっとか言いながらニールさんは、蒼真さんに見えないようにウインクする。
千紗はびっくりして大きく瞳を開いた。
うわっ。
この人悪魔だ。
微笑みの王子をからかって楽しんでる。