平穏な愛の落ち着く場所
『どうしたの?』
不思議そうに首をかしげる彼女の手を握った
なんだよ、ちくしょー
口の中が乾いてきたじゃないか!
こんなに緊張するとは思わなかった。
『何か変よ?具合が悪いの?』
くそっ!
蒼真や勇斗に出来て
俺に出来ないはずがない!!
瞳を閉じて、深く息を吸い込んだ。
『崇さん?』
瞳を開けてぎゅっと引き寄せ、
彼女を見つめる
『千紗、俺をおまえの家族にしてくれ
おまえと紗綾とクイン……そして
紗綾の妹を作ってやろう!』
一気に言って、はあーっと息をついた。
『…………』
握っていた手がぎゅーっと痛いほど握り返されるが、彼女はうつむいて黙っている。
言い方が悪かったか?
それとも
くそっ!考えたくないが、
やはりもう結婚など懲り懲りだと思っているのだろうか?
彼女の沈黙に、
焦りと落胆の入り交じった不安で胸が
潰れそうになる。
『頼む……なにか言ってくれないか?』
自分から出た掠れた声に情けなくなった。
『紗綾の……妹?』
うつむいたままの、彼女の押し殺した声は震えていた。
子供を望むのが間違っていたのか?
『あの娘が妹がいいって言っていたから…』
いや、違う!
なにあの娘のせいにしてるんだよ俺は!
『ほんとうに?紗綾が?』
『今日、公園で話したんだ。俺は別に性別
なんかどちらでも……千紗、』
もう断るならはっきり言ってくれ!
そう怒鳴りそうになった時だった。
『男の子!』
『は?』
『あなたそっくりの男の子を産むのが
昔の私の夢だった……』
顔をあげた彼女の瞳からは大粒の涙がこぼれている。
笑顔で泣いている女が美しいと思ったのは
初めてだ。
『千紗』
彼女を力いっぱい胸に抱きしめた。