平穏な愛の落ち着く場所
『おはようございます』
千紗はロッカーで着替えを済ませると、
社員食堂へ向かった。
それにしても……
昨日、久しぶりに会った彼は相変わらず
素敵だった。
私の初恋にして、初めての相手。
当たり前だけど、あの頃よりずっと
大人になっていた。
清潔にカットされている短めの黒髪に
磨かれた靴と洗練されたスーツ姿は、
彼の鋭い目や気難しそうな顎をより
引き立たせていた。
きっと今は、仕事の上で彼と対峙するには
かなりの労力がいるはずだわ。
社会に出て一年目ですら、
新人とは思えない仕事ぶりだったもの。
それでも中身は変わらなかった。
昔と変わらず、ぶっきらぼうだけど
やっぱり心配性で優しい人。
《困ったことがあったら、
いつでも連絡してこい!》
私が自分の会社の社食にいるって
知ったらどうするかしら?
ここで働き始めて最初の一週間は、
もしかして会う事があるかもと期待して、
ついつい入り口を見ていたけれど、
一ヶ月も経てば、彼の様な人は社食には
来ないのだとわかった。