平穏な愛の落ち着く場所
『泣くなよ』
千紗は首を振った。
『なんなのよ……突然あっさり……』
『泣くなって、頼むよ』
優しく言われると、更にポロポロと大粒の涙がこぼれ出す。
彼が困った顔で涙を拭うように、頬や額に口づけられる。
ー 俺を家族にしてくれ ー
もう、なんて彼らしい……
『なあ、返事をしてくれ』
『私はバツイチで子供もいて…んんっ……』
最後まで言わせてもらえなかった。
噛みつくように重ねられ、
息つく間もなく深く想いのすべてをつぎ込まれたキスだった。
『聞きたい返事はそれじゃない』
『だから……』
『千紗!』
だから、
あなたに相応しくないって言われないよう
頑張るわって言いたかったけれど。
『俺と結婚するな?』
するな?って、
気の短い彼の、
そのあまりに彼らしい言い方に、
もう自分のことはどうでもよくなって、
くすくす笑いが込み上げてきた。
『はい』
『よし!』
ほっとして笑った彼は、私の手を握って
寝室へ向かった。
『待って!夜、紗綾が寝てから……』
振り返った彼がニヤッと笑った。
『やることがあるが、そのヤルじゃない』
『えっ……』
彼は手を引き寝室に入ると、奥のクローゼットに入った。
薄暗いお陰で赤い顔を誤魔化せるわ。