平穏な愛の落ち着く場所

二階堂浩輔は、愛する妻の指令を
速やかに実行しようとしていた。

妻という言葉の響きに深い満足感をえる。
ついに、結婚を承諾させたのだ。

大学で出会ってから、かれこれ10年が
経とうとしているが、冴子は変わらず美しく
彼女を求める情熱が冷める事はない。

昨日までビーチで過ごした、夢のような時間
を思い出すと、自然と笑みがこぼれた。

『気持ち悪い。
 何をニヤニヤしてるんだ?』

崇の声にハッとする。
そうだ、指令だ。

『ニヤニヤなんかしてないさ』

『どうせ冴子の事を考えていたんだろ、
 …ったく、よく飽きないよな?』

崇はおえっと白眼をむき出した。

浩輔は大学で知り合った俺より1つ上の
先輩で、今は仕事のパートナー。

あの頃から冴子に夢中で、
それなりにモテていたはずなのに、
変わらず冴子一筋だ。

『冴子に飽きるなんて想像できないな』

『その辺で勘弁してくれ。
 このあとも打合せが立て込んでるから
 近場にしよう』

崇は、このまま浩輔がハネムーンの
惚気話をしだしたら止まらない気がして
ランチミーティングの予定時間を早めに
切り上げようと思った。

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