平穏な愛の落ち着く場所
『そう、俺も休暇中のデザインの直しが
何件かたまっててさ、悪いんだけど
たまには社食にしないか?』
浩輔は実に自然にそれを言った。
冴子には内緒だが、演技は得意だ。
必要ならばいくらでも上手に嘘はつける。
『社食?』
『ああ。何か問題でも?』
『いや、おまえ社食なんか使ってるのか?』
『はっ、これだからおまえは女子社員から
近寄りがたい所が返って素敵とか
言われるんだよ』
『はあ?』
『いいか、孤高の一匹狼くん
もっと身近な所に目をむけたまえ』
『はあ?』
崇とは知り合って、もう10年以上経つ。
彼の事は、友人として色々知っている。
事、恋愛面においても。
父親のようになりたくなくて、いつも
お手軽な付き合いばかりで、執着がない。
千紗ちゃんを除いては……
彼女と付き合っていた頃の崇には
滅多に見る事がない、彼本来の情熱や
柔らかさがあった。
もちろん今はすっかり消えてしまっている。
浩輔は軽く首を振って、残念そうな顔をした
『なんだよ?』
『いや、なんでもない。行こう』