平穏な愛の落ち着く場所
5.
ここ最近の不景気から、どの会社も
社員食堂は見直されている。
社員同士のコミュニケーションや結束
そんなものの重要性も加味されているらしい
もちろん、崇もその事は知っている。
だが……
まさか、自社の社食がこのようになっている
とは知らなかった。
確か昨年の春、ここの改装を手掛けたのは、
冴子の建築チームだったはず。
天井は高く広々として、全面ガラスの
窓からは見慣れたはずの東京タワーが
違った様相で見えている。
軽食コーナーや来客用に個室が設けられて
おり、さながらホテルのレストランのよう。
『冴子はいい仕事をしたな』
『だろ?何度かテレビの特集コーナーに
出てるんだぞ?』
『おい!注文しなくていいのか?』
浩輔は崇を無視して、そのまま奥へ進んだ。
『こっちは?』
『社員用のレストラン、社食より高いが
こっちのが旨いんだ』
『へえ』
二人が社員食堂に現れた時から、
色めき立つ女子社員の声が聞こえていたが
千紗はそれを、またテレビの取材か何かだと
勘違いしていた。