平穏な愛の落ち着く場所
『とりあえずは、ショッピングモールだな』
『ああ、デザイン急がせる……おっと』
崇がコーヒーカップを持ち上げた所で
予定通り妻から電話が鳴った。
『悪い、先に行く』
浩輔は仕事だと嘘をついて席を立った。
『例の橋か?』
『ん?ああ』
浩輔は、適当な相づちを打って出ていこう
としてふと、崇を見た。
『なんだよ?』
『おまえが社長になればいいのに』
『器じゃねぇし、その権利もない』
『そう思ってるのは、おまえだけなのにな』
『買いかぶりすぎだよ、
それに、哲《さとし》はこれからだ』
腹違いの兄はビジネスに向いていないと
早々に離婚した母についていき、
弁護士になっている。
今のところ、後継者は腹違いの弟で
大学生の哲。
崇の母は、加嶋に縛られる事を嫌い
父を愛していた間だけ…崇が8歳の夏まで
その務めを果たした。
父がどんなに望んでも籍を入れずに……
息子にも自由を望む母は、後継者として
育つことを嫌い、今だって加嶋に
入ったことを気に入らないと
言うだろう。
たまに会う父が言うには、最近はモナコ
で自由な暮らしを満喫しているらしい。
『おまえがそう言うのなら』
浩輔は肩をすくめて出ていった。