平穏な愛の落ち着く場所


千紗は今日の為にこの二ヶ月、
死に物狂いで働き、節約をしてきた。

友人……それも親友の結婚式に、
欠席はできない。


『いい、紗綾《さあや》これから……』

『わかってるよ、ママ。 
 もうすぐあーちゃんがくるから、
 いっしょにランチするのよね。
 あーちゃんね、デザートもたのんで
 いいっていってたよ』

今年四歳になる娘の口から出た、
ランチするという言葉に、
千紗は思わず微笑んだ。

最近、誰の影響か彼女はOL言葉が
お気に入りの様子。

『そうよ、ママは遅くても6時までには
 帰ってくるから』

『ほいくえんのおむかえとおなじじかん』

『そうよ』

千紗は小さなお姫様をぎゅっと抱き締めた。

『ママ?はやくメイクしないと、
 あーちゃんがくるよ?』

メイクなんていつの間に覚えたのかしら?
千紗は笑いながら、マスカラを塗った。

今日のドレスは、レンタル。
それでも、久しぶりの華やかな格好に
心が浮き足だった。
惨めな結婚生活から学んだのは、
うわべだけ取り繕っても、
娘の手本にはならないということ。

あのままあそこにいたら、
流行のドレスにパンプスを合わせ、
ヘアメイクも自分ですることは
なかっただろう。

でもそれが何?
私はあの家の道具ではないのよ!

口紅を持つ手が震えた。
この三年で世間知らずなお嬢様は、
本当の人の温かさを知ることができた。

血の繋がりなんて、あてにしてはダメ。


< 3 / 172 >

この作品をシェア

pagetop