平穏な愛の落ち着く場所

『一年前よ、
 偶然、街で紗彩ちゃんに会ったの』

『さあや?』

『千紗の娘。彼女そっくりの可愛い子よ』

本当に、あの娘は千紗の良いところを
すべて受け継いでいる。
あの男の面影がどこにもないのは
まったく、神様に感謝すべきだわ。

『それで?』

『千紗と不動産やから出てきた所
 だったわ。彼女は痩せて顔色が悪くて
 今にも倒れそうだった』

『今だって吹けば飛びそうだ』

冴子は同意するようにうなずいた。

『そこで初めて離婚したことを聞いたの
 詳しい事は、友情が大事だから
 話せないけれど……
 崇、これだけは信じて!
 あの男は卑劣なろくでなしよ』

『疑うつもりはないね』

崇は何を聞いたとしても、
千紗の結婚相手がろくでなしだと思った
はずだと、確信している。

『事情を聞いて、住むところを探して
 保証人にもなった。仕事も紹介したわ
 でも紹介しただけよ!
 千紗に約束させられたから……
 人事にごり押ししたりしてないわ、
 彼女は自分でこの仕事を勝ち取ったの』

『あいつらしいな……必要以上に甘える
 ことができない』

ギリギリまで自分で何とかしようとする。

『ええ』

『だが、なぜ実家に戻らない?』

当然の疑問を口にした。
千紗の実家は、代々続く資産家で
未だに金に困っているなんて噂すら
耳にしない。

『それに関しても、私は何も言えないの』

『冴子!』

崇はいい加減、痺れを切らした。
これ以上、俺一人を蚊帳の外に追いやる
つもりならば、相応の考えがある。


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