平穏な愛の落ち着く場所

『崇、千紗に関わるなら覚悟して』

冴子は自分で運命の歯車を回しておきながら
そこは親友として、はっきりさせて
おきたかった。

『は？』

『すぐに離婚の事を話さなかったのは、
　５年前にあなたは千紗の手を離した
　からよ。もしこれから、中途半端に
　関わって傷つけたら……私は
　今度こそあなたを許さないから！』

千紗はあなたを愛していたのよ！
そして、あなたはそれ以上に彼女を
愛していたはずなのよ！

この5年、何度も従兄弟にぶつけたかった
言葉を冴子は辛うじて飲み込んだ。

『冴子……』

『だから覚悟して。できないなら、
　このまま千紗の事は忘れて。
　もう二度と親友が傷つくのは見たくない』

冴子はそう言い捨てると出ていった。

『んだよっ！！』

崇は行き場のない想いを込めて、目の前に
あったガラス細工の置物を思いきり
投げつけた。

傷つく？

そんなはずはない！！

嘘だ！！

あの時、結婚が嫌で俺に
引き止めて欲しかったというのか？

あれが演技だったと？

あの時、彼女は笑顔さえ浮かべていた
と言うのにか？

……そうだとしたら、
あいつはまさにオスカー女優並みの
演技力だったじゃないか……