平穏な愛の落ち着く場所
8.
崇の記憶は一気にあの頃に戻った。
***
荒い息が整うと、崇はゆっくりと寝返りを
うち、彼女を腕に抱き寄せた。
『どした?最近やけに積極的だな』
部屋に入るなり、ネクタイを捕まれるのは
悪い気はしないが……いやそれこそ望む所
だが、彼女のキャラではない。
『そんな事……』
『あるだろ?そろそろ理由を言え』
『理由……』
千紗は愛しているという言葉を必死で
飲み込んだ。
この人は愛を望んでいない。
その悲しい現実は今の私にとって唯一の
慰めになっている。
そうでなかったら、この人との未来を
夢見ておかしくなってしまいそうだから。
ああ……
彼にそっくりの男の子を追いかけ回す
日々は永遠に訪れない。
『千紗?』
『お仕事ばかりでかまってくれないから』
千紗は少し拗ねた顔で唇を尖らせて
軽く彼の耳を引っ張った。
嘘じゃないわ。
彼は私の嘘はすぐにわかってしまうから
誤魔化すなんてできない。
『それはすまなかったな』
謝罪の意味を込めて、崇は優しく唇を
重ねた。