平穏な愛の落ち着く場所
この子を独りで家で待たせるなんて、
出来るわけない!
まだ四歳にならないのよ!
そんな配慮もできないなんて。
千紗は泣き出したいのを堪えて
すがるような思いで隣のドアを叩いた。
『誰!!忙しいのよ!』
愛ちゃんの怒鳴り声に、心から安堵した。
『愛ちゃん!ごめんなさい』
『千紗?』
慌てるように開いたドアから、出勤前の
メーク途中の愛ちゃんが出てきた。
『愛ちゃん、忙しいのにごめんなさい
10分だけでいいの、紗綾を預かって
もらえないかしら?』
『いいわよ』
『えっ!』
頼んでおきながら、即答する愛ちゃんに
驚いた。
『あんたはアタシの事をわかってる
この時間がどういう時間かね、
それでも頼むんだから、よっぽどでしょ』
『愛ちゃん……』
『いいから、さっさとおしっ!
さあや姫、中に入ってテレビ見てなさい
メイクの邪魔したら、今度のランチは
ピーマンが沢山のお店に行くからね!』
『はいっ!』
さっきとはうってかわって、
紗綾は元気よく返事をしてあがると
きちんと靴を揃えて、勝手知ったる
我が家のように、愛ちゃんの横をすり抜けて
テレビの部屋に行った。
『事情は後で聞くから、早く行きな!』
『ありがとう』
千紗は階段を駆け降りて、エントランスへ
戻った。
イライラと煙草を吸っているかと
思っていた元は、予想外に機嫌良く
ベンチに座っていた。