平穏な愛の落ち着く場所


崇は自分の計画が速やかに遂行されているか
確かめるだけだと、自分に言い訳をした。

そうでなければ、いつもより早く出社して
こんな風に、こそこそ千紗の後を付けたり
しない。

和田は見事に計画を実行してくれた。
次は彼女が冴子を頼れば、計画は無事に
終わる。

それにしても……

あいつは非常階段なんかで何をしている?

まさか!!

あそこから帰った訳ではないだろうな!

焦った崇は計画を忘れて扉を開けた。


『くそっ、千紗!』

気づいたら彼女を抱きしめていた。

『崇さん?どうして?』

『泣くな』

こんな所で一人で泣くなんて……

千紗を悲しませるつもりはなかった。
崇は罪悪感でいっぱいになった。

『わたし…クビなの……
 この仕事が好きだったのに……ううっ
 ……他に資格もないし……』

『俺がおまえの望み通りにしてやる』

突然現れた崇に驚いた千紗だったが、
彼の言葉にまた涙が溢れてきた。

『わ…たし……』

『しーっ、今は何も言わなくていい』

あやすように優しく背中をさする手に
千紗の中の最後の砦がもろく崩れ落ちた。

こんな風に誰かに甘やかされたのは
何年ぶりだろう。

ううん、最後の優しい手もこの人だった……



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