平穏な愛の落ち着く場所
『たかーい!』
紗綾は、さっきの発言はなんだったのかと
思うほど、無邪気に眺めを楽しんでいる。
『あっ、しおちゃん!』
『さあやちゃーん』
コインパーキングの赤色の車の前で
同じ制服の女の子が手を振っている。
赤ん坊をベビーカーから下ろした
ショートカットの溌剌とした女性が
こちらを見て、頭を下げる。
慌てて崇も頭を下げた。
『友達か?』
『うん!!おなじくらすのなかよし
あきみつしおりちゃんだよ』
一台おいて隣の自分の車の前に着き、
紗綾を下ろすと、しおりちゃんと呼ばれた
子が傍にきた。
『さあやちゃんのぱぱ?』
くりっとした眼が興味津々に輝いている。
『こらっ!しおっ!』
すみませんと母親が慌てて娘を引っ張った。
『おじさんはさえこちゃんのいとこだよ』
その紗綾の返事に答えたのは母親だった。
『あらっ、そうだったんですね!
ああ……どこかでお見かけしたかと
思ったら、冴子の披露宴だわ!』
どうやら冴子を知っているようだ。
『冴子をご存知ですか?』
『ええ、千紗と冴子は大学の時の友人です』
『そうでしたか』
『千紗、どうかしたんですか?』
『いや、大した事はないんですが……
ちょっと間に合わないと頼まれて……』
『そうですか』
言葉を濁す俺にあえて何も聞かずに
笑ってなんとなく会話を終わらせると
彼女は子供を呼んで、車に乗せた。
『さあやちゃん、ばいばい』
『ばいばい、またあしたね!』
その会話を見ながら、はっとする。
『すみません!』
『はい?』
『それはどこに行けばありますか?』