平穏な愛の落ち着く場所
darling place 推移
1.
『嘘だろう?!』
前方で信じられないものを見るような顔で
立ち止まった浩輔は、大袈裟に二度瞬きをして俺を見た。
『おまえ、それなに?』
『見てわからないのか?熊じゃねえぞ?』
『いや、そうじゃなくて!』
『俺の犬』
『はあ?何の冗談?』
加嶋崇が赤い首輪の仔犬の散歩?!
想像だけで十分笑えるのに?!
『名はクインだ』
真面目くさって言う崇の顔と足元にいる仔犬を交互に見て、浩輔はとうとう吹き出し
ついで爆笑しだした。
『おまえ笑いすぎだろ』
少しふてくされた顔の崇に向かって、悪い悪いと手のひらを見せてから、浩輔は目尻を拭いた。
『よしっ!クインおいで!』
身構える仔犬を抱き上げると、クインが顔をペロペロ舐めるのを好きにさせる。
『おかしいと思ったんだよ、こんな朝っぱら から崇が公園なんかに呼び出すなんてさ こっちが何かされるのかと思って構えてた のに……って待てよ!まさかこいつを
見せるために呼び出したのか?』
『アホか』
『だよな。それにしても、おまえさん
べっぴんさんだなぁ』
ガシガシと撫でる浩輔にクインはごろんと寝転がり腹を見せた。
ちぇっ、懐くのが早すぎだろ
今朝俺と二人になった時は怯えてたくせに
まんまと服従しやがって、こいつもその辺の女と一緒だな。
『んで?用は?手短に頼むよ
これから約束があるんだ』
『冴子なら待たせればいいだろう』
『冴子を待たせるなんてありえないけど
今日は違う。それに冴子は今インドだ』
『ああ、例の美術館か。一緒に行かなくて よかったのか?』
『俺はタイの橋で手一杯だし。それより何か 話があるんだろ?』
『ああ……』
崇は珍しく躊躇うようにうつむいて
膝の上で両手を組んだ。
『浩輔、おまえ千紗の元夫の事はどこまで 知ってる?』
『あのろくでなしはいつか地獄へ落として
やるさ』
急に声色の変わった浩輔にクインが怯えて
崇の足元に隠れてきた。
『最近の悪行は?』
『何故それを?千紗ちゃんがおまえに?』
『いや、娘だ』
『はっ?!娘って、紗綾ちゃんか?』
『ああ』
『ああって、紗綾ちゃんと会ったのか?』
『ったく、めんどくせえなぁ……』