平穏な愛の落ち着く場所
なに?!
この人の目的はなんなの?
やめて!
この人が本気で親権が欲しいわけがない!
『わかったわ、調停は取り下げます』
父親としての態度を野口に求めるのは
馬鹿な事だと、周りに言われなくとも百も
承知している。
それでも娘には同じ血が流れているの
この人を蔑みお互い憎み合う事で、
将来あの娘が自分を疑って欲しくないと
思ったのよ
でも、もう無理
何もかも無理だったのね
皆の言うように私が馬鹿だったんだわ
この人の中にはこれっぽっちも、父性が存在しないのよ
『養育費もいりません』
毅然と言い放つと、待ってましたとばかりに
私を見ながら、野口は可笑しそうに笑いだした。
この笑いかた
この馬鹿にした笑いを聞く度に私は
無力だと思い知らされる
今回は何だというの?
叩かれるような事は何も言ってないわ
そして二度と殴られるつもりはない
『くくくっ…ははははっ』
『何を笑っているの?』
『つくづく単純で馬鹿な女だと思ってさ、
いいか、裁判には俺が勝つ
そしておまえが俺に養育費を払うんだ』
『そんな馬鹿な話あるわけないわ』
全身からすっと力が抜けて、サーっと
血の気が引いていく
『弁護士は勝算があるといってたぞ?
冷静に考えてみろよ、俺は再婚する、
しかも家は病院だ。
祖父母もいる安定した収入のある父親 で、そもそも離婚はおまえが
性格の不一致を訴えて修復を望む俺を
押しきったものだろうが。
勝てると思う方がおかしいだろ?』
『嘘よ……』
『最初から俺の言うことに素直に応じていれ ば、こんなことにならなかったのにな』
『……元さんお願い』
『それはベットでしか通用しない言葉だな』
野口はちらりと私を見て首を振った。
それを見て引きかけた血がカッと頭に上った。