平穏な愛の落ち着く場所
わかっている、
彼は反抗的な私を待っているって
それでも怒りを押さえることは出来ない!
こんなふざけた理不尽な話が通用すると
思っているなんて!
『どうして今になって!!』
『新しく妻になる女はかわいいが、
実家の財産はお前のが上だな』
それは言外に私の実家から援助しろと言っているのだと理解した
離婚の時に実家から払われた慰謝料を
もう使い果たしてしまったんだわ
『……お金なのね』
紗綾がかわいいからじゃない
『当たり前だろ?』
紗綾と暮らしたいわけじゃない
『あなたにとって大事なのはそれなの?』
私と結婚したのも もちろん愛ではなく、
ましてや義理や義務でさえない
私の実家に財産があったから。
『だからおまえは馬鹿だって言うんだよ、
楽しく暮らすには何より金が必要だ』
千紗の中で最後の砦にしていた薄い城壁が
音をたてて崩れた
どうして私はこんな男との結婚を決めてしまったのだろう
心に自分の愚かさを呪う悲しみだけが
虚しく漂っている
『かわいそうな人……』
心の声がポツリと口を出た
『なんか言ったか?』
あんなに素晴らしい娘がもてたのに
『……かわいそう』
『なんだ?はっきり言ってみろよ!』
あの娘がいるだけで十分楽しく暮らせるのに
わからないなんて本当に……
『かわいそうな人って言ったのよ!!
それであなたには何が残るの?
愛情や尊敬はお金では買えないのよ!
お金を使って贅沢する時間より
あの娘と過ごす時間の方がずっと素晴ら
しいってわからない人が紗綾と暮らす
なんて許されるはずがないわ!』
キーンとした耳鳴りはいつの間にか、
ごうごうと荒れ狂った竜巻のような音に
変わっている。
『おまえ!!』
くるっ!!!
わかっていたのに、身構える前にバチンッと頬を勢いよく叩かれ地面に倒れこんだ。
痛くなんかない!
叩かれたって平気よ!
地面に倒れたまま、キッと睨み返した
『なんだその顔は!』
さらに腕を強く引っ張られ、振り上げられた手に、今度はぎゅっと瞳を閉じて身構えた。