平穏な愛の落ち着く場所


正直ここまでどうやってきたか覚えていない


俺は車で保育園へ向かっていた。

姑息な手段かもしれないが、クインを使ってあの娘を取り込めば千紗と話し合う機会が
持てるはずだと考えて。

『いいか、おまえにかかっているからな』

後部座席のゲージで丸くなっているクインを
バックミラーで確認する。

クインがワンと吠えるのと同時にピリリと携帯が鳴った。

『運転中だ』

クインと携帯に向かって言うが、どちらもわかっていない

短い赤信号でドライブモードに変えるが
鳴り止む気配がなく、次第に車の中はピリリとワンの騒音交響曲になっていく

『っんだよ!!しつこいな!』

仕方なく車を路肩に寄せると、
着信は全て蒼真の表示。

『蒼真?』

とりあえず一番最初の留守電を聞くと
蒼真のひどく慌てた声が聞こえてきた。

《崇!!おまえどこにいるんだよ!!
 森澤さんが大変なんだ!電話に出ろ!》


森澤って、……千紗か!

はっ?千紗が大変!?

再び鳴る携帯を慌ててとった


『千紗がどうしたんだ?!』

『やっと繋がった!おまえ今どこ?
 森澤さんが倒れたんだ!久藤総合病院、
 わかるだろ、すぐに来い!』

頭の中が真っ白になった

千紗が倒れた……


次の瞬間、携帯を助手席に投げ捨てた


『いいか、病室は……』

蒼真がまだ何か言っていたが、
足はアクセルを踏み込み、ドクドクと鳴る
心臓の音が耳鳴りのようにこだましていた。



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