平穏な愛の落ち着く場所
『すまない』
一緒に破片を拾い始めると、
『私も家に帰ったら庭で要らないお皿を
割ります、発散するのには一番だから。
今回は10枚あっても足りないかも』
そう言って、しおちゃんのママは
投げつけた時に落ちた車のキーを俺に渡し
ながら小さく笑った。
『余計な事言うと千紗に叱られるのは
わかっているんですが……』
『言ってくれてかまわない』
『では言わせてもらいます。
本気じゃないなら、今すぐここから
出ていって下さい』
控えめな口調だが、俺を見る瞳は嘘や誤魔化しを許さない強い光りがさしている。
『加嶋さん、あなたは一度千紗を捨てたわ
もう二度とあんな風に傷付く彼女は見たく ないんです』
静かな彼女の言葉が胸に刺さった
『俺は……』
『千紗は本当はずっと待っていたんです
結婚式のその日ですら、あなたが追いかけ て来て連れ戻してくれるのを』
『なっ……』
『私に気持ちを話す必要はありません
ただ、気紛れや大人の遊びだと言うなら
彼女が目覚めた時にここにはいて欲しく
ないんです』
『………俺はここにいる』
『そうですか』
しおちゃんのママは、俺の瞳を見て肩の力を
抜いて深く息を吐いた。
タイミングを計ったように蒼真が入ってきた。
いや、こいつの事だ
実際、廊下でタイミングを待っていたんだろう。
片付け終ると、しおちゃんのママが俺に伺うような顔で言った。
『そろそろお迎えに行かないと』
『お迎え?』
蒼真が俺たちの顔を交互に見た。
『蒼真、頼みがある』
あの娘の不安を思うと、しおちゃんのママの
申し出に従った方がいいのはわかったが、
親権を争うつもりの野口が何をするか
わからない、やはり安全が優先した。