平穏な愛の落ち着く場所

5.



『あの娘きっと一人で不安だと思うの』

覆い被さった俺の肩を押して、千紗は不安そうに俺を見上げた。

『あの娘は大丈夫だ。
 蒼真の所にも一つ年下だが女の子がいるん だ。さっき電話したら仲良く遊んでいる
 と言っていたから心配するな』


安心させるようにぎゅっと抱き締めてから
ベッドから起き上がって側の椅子を引いた。


久藤院長の診断の結果は良性の目眩だった。

だが、それを発症させたパニックやストレス
は、以前から貧血や食欲不振、低血圧等の
体調不良に繋がっているはずだから、
いつ倒れてもおかしくない状態だったと。

なんなんだよ、
どうして千紗がこんな状況になってる?

溌剌として笑顔の眩しかった彼女が
なぜこんな不幸のドン底にいるんだよ

『そう。ならば安心かも……』

『明日の朝一番でここへ連れてきてもらう
 が、今電話してみるか?』

『ううん、いい……声を聞いたら泣いてしま いそうだから』

泣くのはおまえなのか?と聞くのは止めた。
千紗はそう聞いただけで泣いてしまいそうだった。

『今日はここでゆっくり眠るんだ』

『眠れるかしら……』


苦笑いする千紗の瞼の下のくまをそっと
親指で撫でる。

再会した時からずっとこうしたかった

頑張らなくとも、俺が何とでもしてやると
言ってこのくまを取り払ってやりたい


『あの娘の事は大丈夫だ』

『ええ……』

苦笑う千紗に別の理由が思い当たった。

婚家は病院だったな。

『病院は嫌か?』

『あ、ううん、違うのよ、大丈夫。
 そうじゃなくて、あの娘と一晩離れて
 不安なのは私の方だなって思って……』

私きっと子離れできないわね、
と千紗は小さく笑った。
 
『今日は俺で我慢しろ』

『え?崇さんここに泊まるの?』

『当たり前だ』

驚き次いで赤くなる千紗に俺の方が驚く

『へっ平気だから、あなたは帰って』

布団に潜り込む彼女を見て、ふっと肩の力が抜けた。

『その態度は今さらじゃないか?』

『私、そんな重病人じゃないから。
 病院だって迷惑よ、普通はこの程度の病状 では付き添えないでしょ?』

『許可はもらっている』

多少裏から手を回したが。

『俺のベッドもあるし』

ソファーを指すと千紗は布団から起きかけて、うっと額を押さえて倒れこんだ。

『……ダメよ、ちゃんと帰って寝ないと』

『俺の事はいいから。
 ほら、目眩がするんだろ?薬を飲め』

『崇さん、私なんかのために』

『ちーさー』

『もうっ』

諦めて俺の手から薬を取って飲むと再び横になった。

『いい子だ』

収まらない目眩と戦っているのか、
片手で瞳を覆ったまま千紗は静かになった。


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