平穏な愛の落ち着く場所
俺の声色だけで言いたいことがわかると言っていたのは本当だろう
いいや、そうじゃないな
あの頃から俺はわかっていた
ただ多くを語らずとも理解してくれる
心地よさに甘えていたんだ
千紗を忘れることはなかった……
魂を抜かれたように妻を愛する親友たちの
幸せを目の当たりにすると
何故か思い浮かぶのは千紗の笑顔で、
その度苦い気持ちで酒を飲んでいた。
あの日、追いかけようと掴んだドアを
開けなかったのは、心のどこかで
千紗が戻ってくると思っていたからだ。
誰より俺を理解してくれる彼女だからこそ
結婚をやめて戻ってくると……
なんて愚かで図々しい男だ
俺が止めろなど言うはずがないと。
まして
結婚しよう、なんてなおさらのこと。
それをわかっていた千紗が戻ってくるはずがなかったんだ。
あの日、俺が一言《止めろ》と言っていれば
千紗はこんなめにあっていなかったのか?
千紗を不幸にしたのは俺なのか?
頼む
誰か違うと言ってくれ!
《おまえ何様のつもりだよ》
そうだな。
蒼真の言う通りだ
今さら結婚なんて言えるはずがない
《なかったことにしてください》
今朝の千紗の言葉がよみがえり
ぐさりと大きく身を切り裂いた。