B - Half
「キョウくんが話さなかったのは、恥ずかしかったからだと思うわ」

 娘の虚ろな視線、俺のぐちゃぐちゃになったアタマを置き去りに、さよこ叔母は小さく笑った。

「だって、キョウくん、【Augasta】の穂波ちゃんが、好きだったんだもの」

「え……」

 ――それが、とどめ。

 カラカラに乾いた喉から、呻きにも似た音が漏れる。

「母さん」

 しよりの平坦な声。

「電話――鳴ってる」

 ぺったんこにつぶれたしよりが、襖をゆびさす。

 確かに、微かなベルの音が聞こえた。

「あら」

 軽やかに立ち上がって、さよこ叔母はするりと廊下へ。

 残されたふたりの間にはすとん、と薄い、刃物みたいな沈黙が落ちた。
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