B - Half
 しよりの、全くしよりらしくない声を聞いて、思い出したことがある。

 しよりが、最初に選ぶのはいつも、馨也の方だったこと。

 そして俺が抱えていた、馨也に対するしこり。

 血族としてのつながりがなかったわけじゃない。むしろ、絆は普通よりも強固だった。

 それを、愛情と呼び変えても構わないと思う。

 そんなあたたかな感情があるからこそ――暗い気持ちは飲み込み切れず、苦く苦く胸の底に澱んだ。

 半分に割られた林檎の左右。

 なにひとつ違いはないはずのに、みんな同じ方を必ず選ぶ。

 俺ではなく――馨也を選ぶ。

 その呪いじみた繰り返しが、最高に俺を卑屈にさせた。

 馨也が死んだとき、感じたのは、自分を縁取る影がごっそり消えたような喪失感と――砂ひとつぶ分の、安堵だった。
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