B - Half
 辻は、フィルターの縁ぎりぎりまで吸ったタバコを、錆びたシンクに擦り付けた。

「確かに、お前のそっくりさんと穂波は、面識があったよ。

 でもたぶん、お前が考えてるのとはちと違うと思うぜ」

「『俺の考え』って、なんですか?」

 濡れた制服。

 冷えていく手足。

 どんどん薄暗くなっていく室内。

 なんだか、思考範囲を切れ味の悪いナイフで削られていく気がする。

 目の前の辻が、にやにや笑っていれば、なおさらだ。

「さあねえ。

 男子高生の健全な思考回路なんて、三十路超えた俺には想像できねえよ」

 ふっと、辻のひょろ長い身体が動いた。

 じり、と引き下がりそうになった踵を、俺は逆に踏み出す。

 辻の身長の方が、ムカつくことに五センチほど高い。

 高低差の分だけ下位になった目線をがっちり噛み合わせて、俺は辻を睨み付けた。
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