B - Half
「しよ! しより、しよりちゃん!」

 背後から、制服から伸びた腕を掴む。

 手のひらのなか、しよりの肌が一瞬とがる。

 振り返ったきつい顔が、俺の姿を認めて、ほろっとゆるんだ。

「なんだ……キョウか」

 この辺りは、一歩入った路地裏に風俗店が並んでる。

 しよりみたいにかわいい子を、ひとりで歩かせたくない地区だ。

「しよ、予備校の帰り?

 呼んでくれたら行ったのに」

「そんな子供みたいに」

 しよりが、声に皮肉を滲ませる。

 そうやって、しよりが強がるたびに俺は、『しよりが好きだ』って気付く。

 寄る辺ない俺たちを守る大人は少なすぎて、望んだって助ける手は足りない。

 それを充分わかってる、さびしい顔だから、胸がきしむ。
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