B - Half
「じゃあ、俺がしよりを、さらっちゃおうか」

 彼女の腕を掴む手に、力をこめる。

「キョウ?」

 しよりの戸惑った顔に、微かな満足感。

 波立った気持ちのまま、言葉を紡ぐ。

「俺が、しよりを連れていってしまおうか」

 コウもさよこ叔母も、誰もいない場所。

 誰も――俺たちが家族だなんて、知らない場所へ。

 口にして、自分の声で、自分の耳で聞いてみたら、その絵空事はひどく魅力的に感じた。
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