B - Half
「しよっか」

 1cm、吐息が掠める位置で、しよりが囁く。

 ――『キスしてください』。

 条件反射みたいに、ぱっと、しよりよりもずっと甘ったるい声が脳裏に響く。

 別に彼女なんてどうでもいいはずなのに、あっさり声が出た。

「やめとく」

 至近距離のしよりの顔を、見返す。

「やっぱり」

 ふっと、しよりが表情を緩めた。

「あのガキのせい? そう思うとムカつくわね」

 言葉とは真逆に、しよりの表情は軽やかだった。

 そのままあっさりと立ち上がって、放り出しっぱなしの鞄を掴む。 

「とりあえず、食べるものだけは絶対に食べなさいよ。

 呆けすぎて餓死するんだったら、先にあたしが殺しにきてやるから」

 物騒なことを云い切って、潔く背を向ける。

「次に会うのは、学校でね」

 ひらひらと、手を振ってみせた。
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