B - Half
「で、なにが不思議だって?」

 手渡したカップを両手で包み、穂波がうっすら、淡い笑みを浮かべる。

「ここにいること」

 甘ったるい声音で、でもはっきりと響く穂波の言葉。

 いきなり不意打ちで、背中からバッサリ斬られた気がした。

 綺麗に一閃された傷口からは、真っ赤な色がのぞく。

 癒し方を知らない傷の、生々しい色彩。


 ここに誰かがいること。

 ここに誰かがいないこと。

 ここは、俺の半分が存在しない世界。



 ――降り続く雨が、俺の砕けた世界を閉ざす。
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