B - Half
 いるのが当たり前の、『あいつ』がいない。

 外に出て、日常をこなしていれば、その違和感はどんどん広がっていく。

 俺が、俺を、立て直せないほどに。

 だから、俺はこの場所から動けない。

 ――なのに。

 凍り付いた俺に、穂波は大人びた、なんでもわかっているみたいな深い瞳を向けてくる。

 つやつやした薄紅色の唇が、ゆっくり言葉を紡いだ。

「桜が咲く前は会ったこともなかったコウヤくんと、梅雨のいま、こうしてる。

 しあわせだなって、思います。

 コウヤくんに出会えて、よかった」

 穂波の顔が、言葉と同じくらいしあわせそうにほころぶ。

 一年前、存在すら知らなかった穂波がここで笑っている。

 ――その、不思議。
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