B - Half
「でも、いいお天気ですねえ」

 俺のに比べると極小な弁当箱を開けながら、穂波が空を仰ぐ。

 確かに、雲ひとつない。遮蔽物のない屋上から見る空は、透き通った青色をしている。

「こういう天気だと、もう悪いことなんてなんにも起こらない気がしませんか?」

 ――悪いこと。

 その言葉に、俺はぎくりとする。

 俺の内心の動揺を知ってか知らずか、穂波が柔らかく微笑む。

「きっと、今日も一日いい日ですよ」

 女神みたいな、母親みたいな、ちょっと高貴な笑顔だ。

 ――こいつは、どこまで知っているんだろうな。

 ぼんやり考えながら、でも、本人に訊くのは止めにした。

「そうだな……」

 唯我独尊な彼女の笑顔と、綺麗に清んだ春の空。

 それさえあれば、とりあえず悪いことなんて起きない気がしたから。
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