B - Half
 紅潮した顔で俯く海樹を、俺はいやに冷静な気分で見下ろしていた。

 海樹が云うのは、綺麗な絵空事だ。

 俺には、そう感じる。バカらしいとも思う。

 取替えがきかない奴なんていない。

 いなくなってしまえば、そいつの抜けた穴を必死で埋めようとする。

 そうしないと――怖くて、痛くて生きてなんていられない。

「それでも……俺は、穂波が『好き』だけどね」

 彼女が、俺の『半分』になってしまった世界をぐちゃぐちゃにしてくれることを、期待している。

 それが、海樹の云うところの無心な『好き』ではなくても。

「云ってろよ。それに」

 キッ、と顔を上げて、海樹は吐き捨てた。

「俺は、あんたの顔が、大嫌いなんだよ」

 ――その一言が、鍵だった。
< 91 / 218 >

この作品をシェア

pagetop