魔法のチーズ・ケーキ
「さぁ・・・

今日のケーキは一段と

実にいい、
実にいい焼き加減だ」

僕はふと
この街に来る前の記憶が
おぼろげなことに気がつく。

「さぁ、ハックが
キミのために
キミのためだけに

焼き上げた
チーズ・ケーキだ」

これを口にすれば
ずっとこの街にいられる。

ずっと外界と接触せずに

思い出も傷ましい記憶も
すべて忘れてしまえるーー。


部屋全体に響いた声は、
汗腺一つ一つの穴から
僕の体に侵入してくる。

そう、僕は
何のためにこの街に来たのか
その本当の理由を
思い出した。

研究でもない
古地図のためでもない

本当は…。



教授の声が
遠くから聞こえる。

「どうだい、
食べるだろう・・・?」



【FIN】
< 65 / 68 >

この作品をシェア

pagetop